これも昨日に続き過去の作品です。
若い自分が恥ずかしいです。
◆はじまり◆
これはよくある屋久島のガイドブックに記載されている、割と一般的な登山口から縄文杉までの往復にかかる時間である。 自称サーファーの僕は大杉漣主演『ライフ・オンザ・ロングボード』という映画に魅せられ「一度は種子島でサーフィンがしたい」などとミーハーな思想を懐き、その中途半端な思いが次第に強くなっていった。
ただ残念な事に三半規管が未発達で毎晩千鳥足の僕は未だに板の上に立つことができない。よく行く海でも1時間の内30分は日焼け、20分はビール、残りの10分でパドリング及びドルフィンというだらしないメニューを3セットも繰り返せば翌日には容赦ない筋肉痛に苛まれるという現状の中、種子島で波乗りとは現地の観光局も航空会社も誰一人歓迎はしてくれないだろう。でも行きたい。それが本音。
そんな訳で種子島が何処にあるかもわからないので参考までにガイドブックを買ってみることにする。
ガイドブックを探してみると種子島単品のもはほとんどなく、屋久島・奄美大島がセットになっているものが多い。その中で一番種子島の情報量が多いものを探す。重要なのは種子島までのアクセス方法がより詳しく載っているもので(種子島が何処にあるかわからない為)、波乗りのポイントなんてお情け程度に出ていれば十分である。
手にした本は『屋久島・奄美 気ままにバスとレ○タカーの旅』。通勤途中幾度となくこの本を読んでいると種子島より大きく扱われているある島が気になり始める。“徒歩10時間”んなバカな。単にマイナスイメージを与え、観光客を減らすべく書かれている様なこのフレーズ。かなり惹かれる。先天的なMには堪らない売り文句である。結局鹿児島行きまで航空券(実は鹿児島で1泊しなければならない)を購入し、さらに種子島でレンタカーを手配、そこに普段はパドリングしか使ってもらえない可哀想なサーフボードを送りつける等、気持ちは確実に種子島に向かっていたのだが、突然の厳しい一言が僕の心を突き動かす。
「ねぇ、向いてないんじゃないの?サーフィン」
これは痛い。かなり痛い。でもうすうすは気づいていた。いや、間違いない。そんなことはわかっている。
しかしこれを認めサーフィンから足を洗うとなると自分が自分でなくなる気がするし、そもそも「何でそんなに日焼けしてるの?」と問われた時に胸を張って「ん?これ?サーフィン」と応えられなくなる。それは困るしマズイ。でも種子島に行かない=サーフィンをやめる。こんな図式にはならない。
そこでダメもとで屋久島のレンタカー屋に連絡してみるとまだ空きがあると言う。こりゃ運命だね。もう行くしかない。海が沸き立ち、山がとろけそうな酷暑、屋久島に降り立つ。
観光案内所などで情報収集してみるとここでは合言葉のように「登った?」「どこの登山口?」などの言葉が飛び交う。どうやらこの島に来た大半の人間は登山をしているようだ。
名所のおおよそが登山在りきのこの島、ガイドブックには確かに縄文杉を目指すならそれなりの登山用品が必要と記載されている。
寸前まで種子島に心を捧げ、2泊の日程で登山は無理、と決め付けていた僕は登山の準備がまるで成されていない。
用意した防寒着は
デニムのハーフパンツ:1枚
タンクトップ:3枚
ロンT:1枚
パンツ:1枚
海パン:1枚
タオル:2枚
ベースボールキャップ:1つ である。
『軽装こそ美徳なり』を信条にしている可哀想な思考回路の僕にしては十分な荷物であるものの、幸いにもスニーカーこそ履いてはいるがとても登山向きでない。
だがここまで来て登山をしないのは正しい屋久島での過ごし方ではない。あまり乗り気ではなかった僅かな登山心が少しずつ、そして確実に大きくなっていくのがわかる。もう抑えられない。
宿泊先に着いてから登山届けを出し、翌日分の弁当を手配し、水やキャラメルを購入するなど珍しく活動的になる。もう抑えられない。
気分はすっかり登山家である。バカな男だ。明日の登山に備え、食堂で偶然流れていた『もののけ姫』を見ながらビールをガバ呑みし、イメージトレーニングをしながら床に就く。PM10:00眠りに落ちる。
◆つづく◆
iPhoneからの投稿
2012
08Dec