エローラ石窟寺院群に着き先と同じ様に同じ約束を交わす。例の1時間後とかいうやつである。荒涼としたデカン高原の、南北に連なる絶壁に西側から穿たれた34の石窟群。岩盤を手彫りでくり抜いた石窟群の前に立つと、その迫力に圧倒される。その中にあるカイラーサ寺院。岩山を真上から掘り下げながら寺院を掘り出していった驚異的な造立方法である。総量20万トンの彫刻。
このエローラ石窟群でユーノスを撒くことにする。理由は先程のレストランにある。知り合いと共謀し、ぼったくり金を巻き上げようとしたのだ。インドには肉体的な暴力性はない。大分インドにも慣れてきた。きっとインド到着すぐであったら心臓の小さい僕はビビッて有り金を置き、自ら身包みを剥いで、みっともない泣き顔を作り、命乞いをしていたであろう。片言の英語と新潟弁を駆使し抵抗した結果、表向きには和解し観光を続けることになったのだ。
駐車場で別れたのだが広大な敷地、遠目で見ても常に僕を監視し動向を確認している。気付かれたか?しかし作戦を続行する。ここも世界遺産だが作戦に集中している今目に入らない。帰国してからは良い話のネタになったが当時は身の危険を感じ、死も頭に過ぎったのである。危険な思いはしたが交通費のみで考えると作戦が失敗しても特別損はないし、作戦が成功したら日本人を陥れようとした罰として改心してもらえれば教訓として残るだろう。これも世直しと自分に言い聞かせ、本来車で移動するべきルートの山を登り、山の反対側にある石窟群へ向かう。ここでもほとんど手ぶら状態に救われ機動力が上がる。山登りをしながら考える。石窟に着き観光している振りをして帰る手段を考える。どうやら最初の駐車場からしか帰れないらしい。何か方法はないか考えていると見覚えのある車が。しまった!ユーノスだ!決して油断していた訳ではない。只ユーノスが一枚上手だっただけだ。だが怪しまれてはいるが、まだ逃げようとしている姿を見られてはいない。不自然に観光を続ける。ぴったりマークしてくるユーノス。隙がない。心理戦が続く。一度和解をしている以上また先の話題を蒸し返すのも野暮である。和解をしながらこの作戦を考えていたのだ。一矢報いねば。何とか隙を見つけ(ユーノスが世界遺産に立ちションをしている間に)元来た山道に戻り駐車場へと急ぐ。まだユーノスは来ていない。ここで別のタクシーを見つけアウランガバードに帰ることにする。
◆つづく◆
iPhoneからの投稿
2012
07Dec