某日AM9:30。15分遅れで成田を発つ。CX509便。寒い。やたらと寒い。昨日から取った睡眠はスカイライナーでの一時間のみ。睡眠欲を溜めに溜め、長いフライトに備えたつもりが想定外である。寒くて眠れない。ずうずうしくもEXITシートに座りブランケットを3枚も借りているこの現状で、これ以上客室乗務員に迷惑を掛ける訳にはいかない。どう考えても間違っているのはアホな子供の様に薄着で張り切っている自分なのだ。しかし寒い。そして眠い・・・。日も高くなり機内の温度もだんだん上がり始めた頃ようやく心地良い眠りと機内食が・・・。どうやらまだ寝かせてはくれないらしい。睡眠より食事である。Beerである。ハーゲンダッツである。
AM10:30。東南アジア特有のややパサつき感のあるライスとチキンのカレー煮込み、メロンサラダ(にが瓜のドレッシング付き)に杏仁豆腐。そしてBeer3本にピーナッツ。そしてハーゲンダッツ。キャセイと言えばハーゲンダッツである。普段アイスなど食べないボクでも心が躍る。運ばれて来たのはバニラ。そこでこの先一番の不安材料である自分の語学力を試すことにする。抹茶味に変更してもらう。これから最低限自分の要求くらい通せないとストレスを抱えて過ごすことになる。それでは楽しくない。笑顔で相手を真っ直ぐに見つめ語りかける。 どうやら伝わったようだ。バニラを下げ新しい何かを手にしている。ほくそ笑むボク。そして客室乗務員の手にはティーカップ。んっ?ティーカップ!?なんで??緑茶である。どうやらボクの語学力は小学生以下らしい。先が思いやられる。覚悟を決め【指差しヒンドゥー語・英語辞典】を手にする。寝ている暇なんかない。学ばなければ。これも全て『インド人にインド人として認めてもらう』ためである。簡単な事だ。せめて行きのフライトくらい勉強の時間に当てよう。睡眠時間を削れば済むことだ。3泊5日の旅を1泊5日にすればいいのだ。そう思い本を広げそっと目を閉じる・・・。そのまま深い眠りに就いたのだった・・・。
自分の冷ややかなヨダレが手の甲に当たり目が覚める。正面には客室乗務員。気まづい空気が流れる。明らかにボクの存在は日本の面汚しである。だがそんな事はしったこっちゃない。今ボクはインド人なのだ。まぎれもなくインド人なのだと自分に言い聞かせる。そう思わなければ日本の皆様に申し訳なく胸を張って成田に帰る事などできない。その思いが背中を押してくれる。
CX509便が着陸態勢に入る。揺れる機内。そして到着。空港に入る。まだ新しい空港。新しい匂い。独特の匂い。見渡す限りの中国人・・・。中国人である。そう、実はまだ香港。早く乗り継ぎの準備をしなければ。その前に一服して、トイレも行って・・・、かなり忙しい。
入国、出国手続きを繰り返すとやはり正解だと思う。荷物が少ないというのは。相当楽である。ただ『手ぶら』と断言できないことが悔しい。ほぼ手ぶらなのである。
まだまだインドまで時間がかかる。とりあえず勉強しよう。言葉を知ろう。人と絡もう。本を無駄にしないために。一回り大きく成長するために。そして何よりインド人にインド人として認めてもらうために。こうしてインドへの決意を改め客室乗務員に迷惑を掛けながら着実にインドへと近づくのであった。
◆つづく◆
iPhoneからの投稿
2012
07Dec